· 

「マイナ保険証」のせいで健康保険が「崩壊」するかもしれない…その決定的な問題点 最悪の暴挙に出る可能性も… 荻原 博子経済ジャーナリスト

2023.04.20

「マイナ保険証」のせいで健康保険が「崩壊」するかもしれない…その決定的な問題点

最悪の暴挙に出る可能性も…

荻原 博子経済ジャーナリスト

 

国による強引な「マイナンバーカード」普及の一環で、すべての国民が使っている健康保険証が2024年の秋に廃止されることになりました。

これは単に紙の保険証がマイナンバーカードに統合されるだけではありません。その先に待っているのは、日本が世界に誇る健康保険制度の崩壊の危機だと私は思っています。

前編記事『8割の日本人が気づいていない「マイナ保険証」の恐ろしすぎる「落とし穴」』に引き続き、マイナ保険証の問題点を追求していきたいと思います。

約4割の医療機関でまだ使えない

実は、「マイナ保険証」の「強制」は、現在の厚生労働省の方針とも矛盾しています。

厚生労働省は、患者が大病院に集中するのを避けるために、「まず地域の医者に診てもらい、そこで不十分なら紹介状を書いてもらって大病院に行く」ことを奨励しています。いわゆるかかりつけ医を持ちましょう、というものです。

そのため、紹介状を持たずいきなり大病院に行った場合は、保険が効かない「特別料金」が7000円も上乗せされます。規定では特別料金は「7000円以上」となっているため、実際には1万円から1万5000円程度を上乗せしている大病院がほとんどです。

ですから、大病院を避けて地域の病院に行く人が増えましたが、中小の開業医は大病院に比べて「マイナ保険証」への対応が遅れています。現在、まだ4割ほどの医療機関で「マイナ保険証」が使えないのですが(2023年3月末時点)、その多くは厚生労働省が初めにかかることを推奨している地域の医者です。

Photo by gettyimages

しかも「マイナ保険証」が使えるところでも、機械で顔写真が読み込めず、本人確認ができないなどのトラブルが多発しています。

全国保険医団体連合会が2022年10〜11月に実施した調査では、回答した医療機関8700余のうち、システムの運用を開始しているのは24%で、そのうち41%がトラブル・不具合があったと答えています。その内訳(複数回答)は、「有効な保険証でも無効と表示された」が62%、「カードリーダーの不具合」が41%でした。


そもそも、2021年4月から医療機関で「マイナ保険証」が使えるようになると国は大々的に宣伝していましたが、あまりに不具合が多く同年10月に延期されたという経緯があります。

ですから健康保険組合などは、機械のシステムエラーに備え、必ず従来の健康保険証を一緒に持っていくことを奨励しています。新たなシステムの導入時に多少の不具合が出るのは仕方ないという意見もありますが、健康保険という命にかかわる仕組みでこれはあまりにも杜撰です。

こんな状況で健康保険証が廃止されてしまったら、どうなるのでしょうか。

Photo by iStock

「マイナ保険証」は毎回提示

国は当初、「マイナンバー」には極めて重要な情報が入っているから大切に保管するよう言っていたのを憶えているでしょうか。「企業が従業員のマイナンバーを預かる場合は、専用の金庫を用意するように」とまで言っていました。マイナンバーカードは、マイナンバーが書かれているカードです。

そのため、紛失などを心配して、マイナンバーカードを取得しても持ち歩かない人が多いのですが、「マイナ保険証」が搭載されるとそうはいきません。

今の保険証は、月初めに一度だけ窓口で見せればいいという病院が多いのですが、「マイナ保険証」になったら、毎回窓口で提示しなくてはならないからです。

本来なら、診療のたびに健康保険証を提示しなくてはならないものですが、それでは患者が煩わしいだろうという配慮で、月一回の提示にしてきた病院が多いのです。

 


けれども、「マイナ保険証」は、毎回提示を求められるので、通院回数が多い人は常に携帯することになりそうです。

これに対して全国保険医団体連合会が昨年12月に厚生労働省に質問したところ、「月初での実施など各病院・診療所で異なる運用を実施している場合は、そちらを優先することも可能」とのただし書きを示したのですが、その後運用マニュアルを改定して、この部分を削除しました。

また、介護の現場では、緊急時の受診などに備えて入居者から保険証を預かっているケースが珍しくありませんが、「マイナ保険証」になると、現場の運用で新たな問題が指摘されています。なぜなら、「マイナ保険証」を預かっていたとしても、4桁の暗証番号も教えてもらわなければ役に立たないからです。

Photo by gettyimages

ところがこのパスワードがわかると、マイナポータル(政府が運営するウェブサイト)にログインでき、納税情報や年金情報、医療情報などを見ることが可能なので、犯罪予防のために預からないという介護施設も出てきそうです。

こうした問題を国はどこまで把握しているのか。大きな疑問です。

 


まるで、嫌がらせのような仕打ち

国が様々な「アメ」を用意して国民に「マイナ保険証」を取得させようとしても、国民全員が政府の思惑通りに「マイナンバーカード」を作り「マイナ保険証」を申請するとは限りません。

様々な理由で「マイナ保険証」を持たないという人がいます。そういう人のため「健康保険証」が廃止された後は、代わりに「資格確認書」というものを発行することになっていますが、ここにも問題があります。

「資格確認書」は、従来の「健康保険証」と同じ役割を果たすものですが、まるで「マイナ保険証」をつくらないことへの嫌がらせかと感じられるほど、使い勝手が悪いのです。

Photo by gettyimages

まず、有効期限は、「健康保険証」が廃止されてから「マイナ保険証」を作るまでの1年間。ただ、1年経っても全員が「マイナ保険証」を作る可能性は低いので、実際には1年ごとの更新になっていくのではないかと言われていますが、まだ結論は出ていません。

また従来の保険証のように、更新時に新しいものを自宅に送ってきてくれるのではありません。仮に有効期限が1年なら、1年ごとに自治体の窓口に行って更新手続きをしなくてはならないのです。

しかも、手続きしてもその場ですぐには発行されない可能性も指摘されています。そうなると、発行されるまでの間は無保険になります。保険料を払っていても、無保険になるというのはどういうことでしょうか。到底納得できません。

関連記事

8割の日本人が気づいていない「マイナ保険証」の恐ろしすぎる…

まさかの治療費が値上がり


病院の料金が高額に

ちなみに、「マイナンバーカード」を紛失した場合も、再発行には1〜2ヶ月くらいかかります。ただ、緊急の場には申請時に市町村の窓口で本人申請をすれば、5〜10日くらいで手元に届く制度をつくると政府は公表しています。「マイナ保険証」ですら、カードを紛失すると一定期間は使えませんから、「資格確認書」も同様かそれ以上に不便になると考えていいでしょう。

さらに言えば、「資格確認書」だと、病院の窓口で支払う料金が「マイナ保険証」より高くなる可能があります。

現在、「マイナ保険証」を使える病院の窓口で従来の健康保険証を出すと、下図のように「マイナ保険証」がある人に比べて初診料が高くなります。しかも、この4月から、12円が18円に値上がりしています。

ちなみに、医療機関が「マイナ保険証」を扱うように義務化された4月現在でも、先述の通り「マイナ保険証」が使えない病院が4割ほどありますが、そこではこうした料金の上乗せはありません。

2023年3月時点

実は、「資格確認書」については、発行する際に手数料を取るという案もあったようですが、さすがに自民党内部から「懲罰的に料金を取るのはおかしい」と反対の声が上がり、現時点では無料になっています。

関連記事

8割の日本人が気づいていない「マイナ保険証」の恐ろしすぎる…


国民皆保険を突き崩す脅威

いかがでしょうか。

現実と照らし合わせて見てみると、私たちにとって「マイナ保険証」は、現在の保険証を無くしてまで導入する価値があるもの、とはとても思えません。

むしろ、諸先輩が築きあげてきた「国民皆保険」という世界に誇れる制度を、内側から突き崩す脅威になりかねません。

事態はどんどん悪化していますが、最悪でも「現在の保険証を廃止する」という暴挙だけは、止めなくてはいけないと思います。

Photo by gettyimages

実は前編でも触れたように、「マイナ保険証」の導入については、患者の個人情報の漏洩を恐れる多数の医師たちからも、反対の声が上がっています。情報が漏洩すると、最悪の場合、彼らが医師免許を剥奪されるかもしれないからです。

次回は、こうした医師たちの声も交え、「マイナ保険証」の情報のあり方とセキュリティの問題に迫りたいと思います。